漫才7「満塁逆転サヨナラ予告ホームラン」
ボケ「9回裏満塁逆転サヨナラ予告ホームランが打ちたいんや」
ツッコミ「それはカッコいいな。野球やったことあるん?」
ボケ「野球のまの字も知らん」
ツッコミ「それは日本語を知らないのでは?」
ボケ「1回シミュレーションしたいから、ピッチャーやってくれへん?」
ツッコミ「まあ、ええけど」
ボケ「ほんなら、オレ、バッターやるわ」
ツッコミ「そうじゃないと成立せえへんからな」
ボケ「さあ、始まりましたわんぱく世界野球大会決勝、1回表の攻撃は」
ツッコミ「待て待て待て待て」
ボケ「ん?」
ツッコミ「1回表からやるん?」
ボケ「当たり前やろ。お前カラオケでサビだけ歌うんか」
ツッコミ「それはもう入店前から口ずさんでるのよ」
ツッコミ「あと、1回表はお前じゃなくて敵の攻撃やん」
ボケ「敵やないよ。強敵と書いて、友や」
ツッコミ「いやな熱さやな」
ツッコミ「あと、わんぱく世界野球大会ってなに?ええやんダブルビーシーとかで」
ボケ「おい、あんま大声で言うな著作権に引っかかるぞ」
ツッコミ「変なとこしっかりしとるな」
ボケ「なんやねんなにが不満やねん。こっちだって妥協して、決勝スタートにしてるんやから」
ツッコミ「初戦からやってたらクワトロヘッダーくらいやらなあかんやん」
ボケ「とりあえず、やってくれや」
ツッコミ「おら」(軽く投げる)
ボケ「ストライク!ナイスボール」(投げ返す)
ツッコミ「なんでふたりとも前向いてやってんねんめちゃくちゃやん」(ボールを受け取る)
ボケ「しゃあないやろ。マイクの都合や」
ツッコミ「いやなとこだけ真面目やな!」(ボールを軽く投げる)
ボケ「おい、もうちょいちゃんと投げろや」(ボールを投げる)
ツッコミ「えー、もう、ふん!!」(ボール強く投げる)
ボケ「ええやん。開幕から飛ばすタイプのピッチャーやな」(ボールを投げ返す)
ツッコミ「あかんあかん。これ、リアルと同じ疲労度やん」
ボケ「大丈夫や。途中で選手交代ある」
ツッコミ「オレは変わらんのよ」
ツッコミ「プロだって中何日か開けて登板してるやろ」
ツッコミ「昨日もこのネタやってたから中0日登板やねん俺」
ツッコミ「昭和の甲子園でもそこまではなかったんよ」
ツッコミ「権藤権藤雨権藤やなくて、俺俺休み俺俺俺やん」
ボケ「たたみかけるな!!!!」
ツッコミ「こっわ。正論は大声でねじ伏せるタイプやん」
ボケ「わかった。そこまで言うなら9回裏はじめからやったるわ」
ツッコミ「お前の打席からがよかったけど、いま表裏含めて17もの譲歩があったから許したるわ」
ボケ「とりあえず投げてくれ」
ツッコミ「ふん」(ボールを強く投げる)
ボケ「ボール」(ボールを投げ返す)
ツッコミ「ふん」(ボールを強く投げる)
ボケ「ボール」(ボールを投げ返す)
ツッコミ「ふん」(ボールを強く投げる)
ボケ「ボール」(ボールを投げ返す)
ツッコミ「ふん」(ボールを強く投げる)
ボケ「フォアボール!」(ボールを投げ返す)
ツッコミ「おい、このピッチャー変えろや!!」(ボールを投げる)
ボケ「ええやろなんでも!」(ボールを投げ返す)
ツッコミ「いやおかしいやろ!決勝最終回4連続ボールのピッチャー!」(ボールを投げる)
ボケ「しゃあないやろ!本職やないんやから」(ボールを投げ返す)
ツッコミ「なんでやねん他のピッチャーわい!」(ボールを投げる)
ボケ「もうお前以外のピッチャー全部使ってんねん!」(ボールを投げ返す)
ツッコミ「どういうことやねん」(ボールを投げる)
ボケ「退場退場痛風退場」(ボールを投げ返す)
ツッコミ「権藤権藤雨権藤やん。どんな大荒れ試合やねん!」(ボールを受け取る)
ツッコミ「あと、なんでフリだけやのに、ずっとちゃんとボール返してくんねん!!!」
ボケ「!!!!???」(驚きの顔)
ツッコミ「もう最後らへん河原でキャッチボールするおっさん2人やったやん」
ボケ「わかったわかった、もう、そこまで言うならランナー貯めたことにするわ」
ツッコミ「ようやく本題や」
ボケ「さあ、9回裏ツーアウトランナー満塁で迎えるバッターはこの男!」
ボケ「初戦から0安打0安打0安打と国内では大バッシングを受けています」
ツッコミ「そらそうやろな」
ボケ「おおっと、観客席から交代を要請する声が上がります」
ボケ「しかし、なんと、この男。その声が聞こえてくるスタンドにバットの先を向けた」
ボケ「サヨナラ満塁逆転予告ホームランです!なんと大胆不敵でしょう!」
ツッコミ「なんか熱くなってきたわ」
ボケ「さあ、ピッチャー最後の一球を、投げた!!!!」
ツッコミ「ふん!!!」(精一杯投げる)
ボケ「うおおおおおおおお」(ゆっくり打つフリ)
ボケ「うおおおおおおおお」(ゆっくり打つフリ)
ボケ「うおおおおおおおお」(ものすごく手元がガクガク震えている)
ツッコミ「そんな、プルプルしたバッティングでホームラン打てるかい!!!!」
ふたり「ありがとうございました」
「公園に鳩がいる。」1〜20
頭の体操にしていた、だいたいが「鳩が公園にいる」から始まる文章が20個もたまってしまったのでここに置いておきます。
1
公園に鳩がいる。鳩しかいない。住宅街の外角高めくらいに位置している公園は鳩が不法占拠する空間になっていた。それもそのはず。遊具があったであろう場所には今は穴しか残らず、大きな看板にはこれまた大きく球技禁止と書いてある。いったい、子らはなにをして遊べというのか。鳩が我が物顔で公園を縦断するのも無理はない。ベンチでご飯を食べる私はもはや鳩から公園を間借りしているような気分だ。
2
公園に鳩がいる。皆様よくよく鳩が何かを食べる瞬間を見てほしい。一瞬である。自然界において、獲物を狙うという行為は隙だらけで、気がつけば自分が危機に瀕することもある。しかし、鳩は一瞬だ。あの首がなせる技か日頃の鳩ダンスによる鍛錬の成果か、鳩は一瞬で首を戻す。プロボクサーが放つジャブが目にも留まらぬ速さで行われること。それが鳩パンチと呼ばれるのもこれまた仕方がないことだろう。
3
公園に鳩がいる。公園の鳩を餌付けする行為を穿った見方をするならば、それは優越感に浸るためではなかろうかと思う。世に愛されず、人に好かれず。そうした人々がパン屑ひとつで好意を抱かれる。鳩を飼わず、そうして餌付けだけをする行為を浅ましく思ってしまう自分が非常に、それはもう叩いても治らないほどにひねくれた人間だと気付いてしまった。お恥ずかしい。ただ鳩を好きなだけの人もいるかもしれない。
4
公園に鳩がいる。白い鳩は平和の象徴とされている。由来は知らないが、そんなことをその両翼に背負われされた鳩の身にもなってあげたらどうだろうか。決して白くはないが、公園にいる鳩もまた鳩だ。彼らもまた平和の象徴であり、敬わなければならぬ存在である。しかし、大きな群れでやってくる鳩は恐ろしくも感じる。私がなんとなく座ったベンチは、もしやいつも誰かが餌付けしている席なのかもしれない。なにも持たぬ私に押し寄せる鳩の群れを見て、なにが平和の象徴だと呟いた。
5
公園に鳩がいる。私が豆鉄砲を持っていれば、鳩に撃ってみせようとも思ったがそもそも豆鉄砲が何かもわからないし、私個人としてもそんな鳩を痛ぶるような行為をしたくない。しかし、豆鉄砲とは何なんだろうか。豆が出る鉄砲。恐ろしいな。それは鳩も驚くだろうし、そもそも豆関係ない。固いものであるならそれは銃弾としての価値を持ち、なんならタピオカでもいい。鳩が豆鉄砲を撃たれることを、現代風にしたら女子高生がタピオカガンで撃たれる。私はそう思う。でも、タピオカは古い。
6
公園に鳩がいる。鳩が忙しなく動く姿を彼はベンチに座り、見ていた。公園の鳩が動く姿など学者以外では暇な、それもよっぽど暇な人間しかいないだろうが彼はそれはもうびっくりするくらい暇な人間だった。休日に何もすることがない彼はこうして鳩を眺めている。楽しいわけではない。することがない時間を、鳩が動かす首を秒針として潰しているだけだ。そうして彼は休日を終えていく。しかし、そんな人生を否定できるだろうか。もし誰かが否定したとしても、それは彼の人生なのだ。鳩を見る。それを止める権利も止めない権利も彼しか持たない。
7
公園に鳩がいる。鳩に餌をやる人もいる。それを見る俺もいる。それを見ている誰かがいる。こうして他者を意識すると自分という存在がよりはっきりと鮮明になり、世界と自分の境界がわかるようになる。そして、三人称視点になることで客観視が可能となり、まるで自分を自分が操作しているのではないかと思うようになれる。すると、どうだろう。自分を操作している自分は果たして自分なのか、とまた自分と世界の境界が曖昧になっていく。自分とは何か。鳩を見る自分と、自分に鳩を見させようとする自分。自分はどっちになるんだ。お前は誰だ?
8
公園に鳩がいる。鳩は美味しいのだろうか。ハト料理はフレンチにもあるし、いずれにせよ鳥の部類に入るのだから食べられるではなかろうか。毒鳥ではないだろう。しかし、鳩食文化が普及していないことを見ると鳩は美味しくないのかもしれない。人間というものは、命の価値を美味しく美味しくないという基準で判断する傲慢さがある。それは人間が地球の絶対的な頂点にいることが原因のはずだ。もし、人間より更に高い知識を持つものが宇宙からやってきたとして、その時
人間はどう判断されるだろう。美味しいと判断されるのか、美味しくないと判断されるのか。どちらが人類にとっての幸福か、それは誰にもわからない。
9
公園に鳩がいる。鳩がいっぱいいる。鳩はチュウコウセイだ。こう書くと中高生にも感じとれてしまい、いきなり公園が爽やか公園ラブコメディになるかもしれないが実際の漢字は昼行性。夜行性とは逆の意味を持つ言葉だが、だいたいの生物がそうであるからこそあまり使われず、なんとなく違和感を感じる言葉だ。違和感を感じるという言葉に違和感を感じる。馬から落馬に似たような、頭痛が痛いに近いような、あの感覚。しかし、違和感とは辞書で引いてみるに、生理的、心理的にしっくりこない感覚のことであり、動作としての意味を持っていないので違和感を感じるはあながち間違いではなんの話してたっけ。
10
いつも公園にいるな、こいつは。よく似た風貌をしているが、じっくりと観察していると個体を識別できるようになった。歩き回る奴もいれば、ずっと立ち止まったままの奴。目に止まったのは、いつも座り込んでいる奴だった。こいつは俺に似ている。いつもと変わらない日常と楽天的に何も考えずに生きている他者に嫌気がさして、ニヒリズムに浸っている。俺は恐る恐る近付いてみた。俺とあんたは似ているな。そんな気持ちを伝えようとして、羽をはためかせながらそいつの肩に飛び乗った。
11
公園に鳩がいる。鳩使いもいる。鳩使いについて、あまり明るくない方はホームアローン2を見てほしい。簡潔に言えば、鳩を扱う者だ。鳩を操る。伝書鳩を飛ばして情報を送ったり、空を飛んだりする。しかして、その合格率は高くなく、鳩使いは尊敬される職業でもあった。しかし、その栄華も今は過去のもの。スマートフォンの普及で伝書鳩はその役目を奪われ、個人飛行機の開発により鳩での飛行を禁止する法律鳩飛び禁止法が施行されてしまった。こうしては鳩使いはもう何もすることがなくなり、今はただ公園で鳩を愛でるくらいしかできない。ピィーと笛の音がなり、鳩の群れは鳩使いを掴んでどこかに連れていく。その背中を僕は通報できないまま、見送った。
12
公園に鳩がいる。しかも、予想されていた通り、亜種だ。僕はすぐさま仲間に知らせるため、発煙筒に火をつけた。緑色の煙が上がっていく。そのジャングルジムよりも大きなドス黒い巨体の鳩もまた、それを開戦の狼煙と捉えたようでクチバシを大きく開いては咆哮した。鳩が、人類に仇なすようになってから半世紀。鳩による襲撃で人類は一度壊滅させられかけたが、鳩ハンターなるもの達が現れ、人類の反撃が始まった。しかし、鳩もまた成長し、今までの存在とは違ういわゆる亜種が登場した。亜種は凶暴で、新米鳩ハンターの僕一人ではとてもじゃないが太刀打ちできない。しかし、やるしかない。剣の柄を握りしめて敵を見据える。その向こうに見えるのは、彼等によって壊された高層の建築物。皮肉にもそれらが壊れて、見えるようになった空は澄んだ綺麗な青だった。
13
公園に鳩がいる。鳩ってうまいのかな。鳩料理と調べてみると海外では食べられることもあるらしい。しかし、公園にいる鳩は当然食用ではないし飛ぶドブネズミというあだ名をつけられるレベルで不衛生らしい。飛ぶドブネズミって。しかし、鳩を食べたことがある人のレビューをネットで調べると、脂が少なくヘルシーで鶏のような食感らしく、少し食べてみたいと思った。文明の進化はすごい。調べるという行為は甘い罠でもある。自発的に手に入れた情報は、人から渡されたものよりも信じてしまうようになっている。鳩は実際に鶏の食感なのか。それは食べてみるまでわからないのに。私たちは知っていると驕ってしまう。
14
公園に鳩がいる。鳩が公園にいる。鳩がいる公園に。公園にいる鳩が。公園にいる、鳩が。鳩がいる、公園に。同じ言葉を並べ替えただけでも、句読点の場所によっても、意味はあまり変わらなくてもその読後感は違ってくる。鳩が主役に、公園が主役にとあれよあれよ入れ替わる。日本語というものは難解だ。しかし、そうして気をつけて文章を作り出していくという作業は、どこか楽しくも感じる。ありふれた言葉を並べるだけなのに、その順番で意味が変わる。それはミックスジュースに入れる果物の順番が変わるだけで味が変わるようなものだ。そんな魔法の言葉、日本語を好きにならないわけがない。
15
公園に鳩がいる。この鳩と称されているものにも区分はあるので、一体貴様は何奴だと調べてみるとドバトなる名前。ドバトって言いづらい。カワラバトとも言うらしく、暇なもので調べていると外来種だったこともわかった。北アフリカや中央アジアにいたこの子達を家禽にそれが野生化したもの、とのことだった。なんでもわかるうれしいインターネット。じゃあ、この子達ってわりと被害者なのでは。被害者の子孫では。と思ってたら先史時代からもういるらしくキリストより前に来てるんならもうそれ日本の鳩でいいじゃん。エジプトでは紀元前3000年前からもう伝書鳩として使われていたらしい。へえ、お前の先祖ってすごい奴等だったんだな。
16
公園に鳩がいる。公園の外にはゴブリンがいる。異世界転生した。仕事の合間にちょっと休憩しようとしてベンチに座ったら、時空がひずみ、世界が変わり、軒並み立つ高層ビルは消え去り、森の中に飛ばされた。何を言っているかわからないが、俺だって何が起こっているかわからない。状況を知識で把握しようとしたら、異世界転生したということになる。公園と一羽の鳩とセットに。異形の声が響き渡る。漫画でしか見たことないようなゴブリンがわらわらと、公園を取り囲んでいる。どうやらあちら側もこれが何か理解できず公園内に入るのを恐れているらしい。しかし、きっと奴らもいつかは入ってくる。そして恐らく俺は殺される。何かしらの能力も与えられていない俺は、殺されるしかないのだ。その時、羽ばたく音がした。鳩が公園から飛んでいった。その背中と恐る恐る公園に侵入してくるゴブリンを見て、悟った。なるほど。どうやらこの異世界転生の主人公は俺ではなく、翼を与えられた鳩が無双する世界らしい。目を閉じ、脇役の幕を閉じる。
17
公園に鳩がいる。わたしは、その姿を、その筋肉を、鮮明に記憶しようと目を光らせる。どうして人は空を飛べないのだろう。彼らのように自由に空を舞うことができたとき、人はまた新たな段階に進むことができるとわたしは思っている。人とは、欲。早く走れるように、誰よりも強くなれるように、空を飛べるように。何を手に入れても飽き足らず。何を奪っても渇いたまま。悠然と空を舞う彼らを見て、わたしは人に生まれたことを恨んでしまった。人類が空を手に入れる日は訪れるのだろうか。
18
公園に鳩がいる。わたしは、これはすごいと思わず声を漏らしてしまった。先史時代の公園を目の当たりにできるとは思わなかった。わずかばかりの遊具と、群れをなす鳩。このような珍しい光景を保存してくれた先史時代の人に感謝する。世界は一度滅びかけた。技術の発展は世界を輝かせて、そして、腐らせた。その合間に生まれた技術が、空間保存技術である。空間を半永久的に、そのまま切り取って保存してしまう。その技術のおかげで、人類は一度滅びかけたときに、こぞって美しいものを保存しようとした。未来に価値のあるものを残そうと。富士山を、自由の女神を、決して安くはない技術だったらしいがそういった先史の遺物たちは、あまりに多く残っている。というより、残りすぎた。先史時代の遺物は、あまりの多さに普遍的なものに成り下がってしまったのだ。わたしは公園を後にする。空間保存美術館最大の注目展示物。世界最高の美術品。最高セキュリティーで守られ、実物を見るには5年待たなければならないと言われているそれは、まさしくここでしか見ることができない価値があった。「鳩のいる公園」か。先史時代に、これを残そうと思ったひとりの天才に思いを馳せた。
19
公園に鳩がいる。わたしは画面を消した。目頭を押さえる。まただ。メタバース空間における遊び場として、わたしは公園をバーチャル空間に作り出した。ジャングルジム、滑り台、砂場。よくある普通の公園を作成していた。画面をつける。そのはずなのに、鳩がいる。鳩を作った覚えがない。なんで鳩がいるんだよ。目の錯覚か。通りがかった社員に聞いた。ええ、鳩がいます。鳩がいますけど、なにか。そう言いたげな顔をした彼女はわたしのことを一瞥したあと、行ってしまった。鳩はいる。依然として鳩はいる。この画面の中に鳩はいたままだ。わたしは仕事を辞めた。鳩を消すことができなかったからだ。
そうして、しばらくしてそのメタバース空間はリリースされた。アバターを作って、あの公園へと行く。公園には、鳩がいた。わたしは画面を消した。
20
公園に鳩がいる。と目の前に書かれた言葉を呟いた。これを書き換えるんですか。ええ。あなたの課題はこちらです。無機質な声と無表情なあの男の顔が頭の中に出てきて、煙草でかき消した。やるしかねえ。この課題を受けないと何も始まらないんだから。
「長年生きてきたけど、鳩と公園にいることが一番和む俺の人生は間違っていない」
「この街が鳩に征服される前に公園の住処を叩くことにした」
男は一瞥してあと、ダメですねと呟いて渾身の作品が並んだ紙を裏にした。つくづく勘に触る男だ。あなたの暗号は少し直接的すぎます。眼鏡を直してから、男はそう言ってコーヒーを口に運んだ。
暗号士という職業がある。もちろん、暗号を作る仕事だ。そして、それは数字の羅列で作られたものではなく昔流行ったライトノベルのタイトルのような、長く説明的な文章である。その中に本来伝えたい意味を潜ませる。まさしく、木を隠すなら森の中。言葉を隠すなら文章のなか。それを現在では暗号と呼ぶ。そして、それを創り出せる人間を暗号士と呼ぶ。わたしはそれになりたくて、暗号士の講座を受けに来ていた。
あなたの暗号に足りないものは、ユーモアです。ユーモアがあれば、本来の意味を隠し通せるようになります。読みたいと思えるようなタイトルを書いてください。今日のあなたの作品にいいものはありません。ですが、これだけたくさん書いてきた努力は認めます。また今日も新しい課題を出しますから、頑張っていきましょう。
そう言って、男は、いや、先生はわたしを見た。無機質で無表情に見えていた男は優しく微笑んでいた。あー、俺は切羽詰まっていたのかもしれない。頑張ります、と呟いて、頬をかいた。そのあとで、ちなみに先生ならどう書くんですかと参考がてら聞いてみた。
「鳩を追いやれば、わたしだけの帝国になる公園で鳩と戦いつづけて100年経った金髪エルフですがなにか?」
ですかね。と付け足して、先生は教室を後にした。
※頭の体操としての効果があるかは知りません。
漫才6「カフェオレ」
A「この前、喫茶店なるものに初めて入ってみたんよ」
B「喫茶店行ったことなかったんや」
A「うん、コーヒーは奴隷の味がするって誰かが言うてたから」
B「とんだ社会批判やな2度と使うなそんな言葉」
A「でもな、めっちゃ美味しかってんコーヒー」
B「まぁオレもなんやかんや毎日飲んでるなぁ」
A「オレも最近はコーヒー飲みたくてヒマなときは喫茶店行ってるねん」
B「ちょっとハマりやすいところあるよな」
A「へへ」
B「かわいいなぁ。で、毎回コーヒー飲んでんの?」
A「いやそんなことはないよ」
B「あ、じゃあ、コーヒー以外のものも飲んでんねや」
A「たまに席に座ってても誰も何も聞いてくれへん時あるからなにも飲まず2時間くらい座って待ってる」
B「おい、なにしてんねん」
A「いや、一番最初の喫茶店は店員さんがきてくれたからオレのなかでの喫茶店はそうなってんのよ」
B「初めて見たものを親と思うヒナくらい単純やな」
A「え、じゃあ、アレ、なにが正解やったん」
B「カウンター行って注文したらええねん」
A「そういうものやったんか。忙しいから忘れられてる思って帰ってたわ」
B「善意の悪人やな。業務妨害で怒られたらええのに」
A「そもそも、喫茶店のくせして、2パターン用意してくるのおかしくない?」
B「せやな。確かに、そんなバリエーションしてくるほうが悪い気もする」
A「アーティスト、ベストアルバムをよく似たか真逆のニュアンスで2つ出しがち」
B「おい、ポルノグラフィティの赤リンゴ青リンゴの話してんのか」
A「いやミスチルのマイクロ、マクロ」
B「両方とも、両方が名盤やんけ」
B「なんの話やったっけ」
A「えーと、マイナーチェンジ」
B「いや、喫茶店やろ」
A「そのどっちにも属していてなおかつ面白い話思いついたから話していい」
B「そんなキラーパス決められる?」
A「そら、ゴールにズドンよ」
B「それシュートやけどな。ほな、任せるわ」
A「カフェラテとカフェオレ、まったくなにが違うかわからん」
B「あーー」
A「あーー」
B「一緒やねんアレ」
A「嘘やん一緒なん」
B「一緒一緒。あれよ、アイスだって、ジェラートとかシャーベットとか言うやん」
A「あーー」
B「アレも一緒なんよ」
A「ほんまに?」
B「ほんまほんま。道端のおっさんがワンカップ片手に力説してたからほんまやろ」
A「それは、ほんまやろなああいうおっさんは世界の真理と通じているらしいしな」
B「真理の門開けてるから、なんでもわかってるねん」
A「そんで、カフェラテとカフェオレってほんまに一緒なん?」
B「どっちも飲んだことあるけど、あんま味の違いわからんかったよ」
A「ほー」
B「まぁ、オレとオマエみたいなもんやろ」
A「どういうこと?」
B「オレもオマエも人類学で言うたら人間の男なわけやん」
A「ふむ」
B「細かいとこは違うかもせんけど、同じ人間、仲間ってことやろ」
A「まぁ、そんな気にするほどの悩みではないってことか」
B「そうそう」
A「じゃあ、次の話いっていい?」
B「ええよ」
A「チャイラテとソイラテはなに?」
B「あーー」
A「あーー」
B「それも一緒やねん」
A「これも一緒なんや、え、じゃあ、カフェラテもカフェオレもチャイラテもソイラテもぜんぶ一緒なんや」
B「そうぜんぶオレたち」
A「ぜんぶ人間という括りのなかでの違いみたいなものか」
B「そう、誤差の範囲」
A「誤差の範囲にしては、価格の範囲すごかったで」
B「かき氷のシロップって味は一緒らしいねん」
A「え、どうしたん急にかき氷の話して」
B「でも、もし、かき氷の味で値段変わってたらより美味しく感じるやろ」
A「確かに」
B「そういう陰謀や」
A「悪徳喫茶店か」
B「せや。気をつけや」
A「え、じゃあ、もしかして喫茶店ってなに頼んでも同じものしか出てこやんの?」
B「せや」
A「メニュー、あんないらんやん」
B「せやねんアイツら誤魔化してるからあ、でも、ええ喫茶店は違うメニューもあるやろ」
A「え、なによ」
B「紅茶」
A「あーー」
B「あれもコーヒーと一緒?」
A「あれはどう考えても一緒ちゃうやろ」
B「なるほど、これからはコーヒー飲みたくなかったら紅茶頼めばええねんな」
A「そうそう。今までの話をすべてまとめるとだいたいそんな感じやわ」
B「あのさ、1個聞いていい?」
A「なによ」
B「アッサムとダージリンは?」
A「あーー」
B「あーー」
A「一緒や」
B「じゃあ、ぜんぶ一緒やんけ」
ふたり「ありがとうございました」
※この漫才はフィクションです。
漫才5「ダンナ」
ボケ「慕われたい」
ツッコミ「人望がないやつのセリフやわ」
ボケ「海賊の親分になって子分に慕われたい」
ツッコミ「ピンポイントに、ピンポイントやな」
ボケ「海賊の親分やるから、子分やってくれへん」
ツッコミ「ええけど、わからんでそんな細かいところまで子分の内情とか」
ボケ「ええよええよ、オレが親分やるから適当に旦那!!って言うてくれるだけで」
ツッコミ「軽い感じで言うてるけど全任せやん」
ボケ「せやで、これはつまりお前の能力を推し量るものであって試練でも」
ツッコミ「わかったわかったとりあえずやれや」
ボケ「ぐわはっはっワイングビー!肉ガブリ!金塊キラキラキラキラ!いやー今日も金銀、食料、土地、戸籍まで全部奪ってやったよ!なぁ!」
ツッコミ「ダンナ!!」
ボケ「こうやって、奪ったものを見ながら飲むワインはたまらねえな!なぁ!」
ツッコミ「ダンナ!」
ボケ「ん?お前らもなにか欲しいのか?」
ツッコミ「ダンナ!」
ボケ「お前らみたいな下っ端にやるもんなんてねえんだよ!塩水でも飲んでろ!」
ツッコミ「だんなぁ〜」
ボケ「はっはっはっ!嘘だよ!好きなもん好きなだけ飲みな!!」
ツッコミ「ダンナァ!!」
ボケ「ぐっ、」
ツッコミ「だ、だんな?」
ボケ「く、苦しい、もしかして、このワイン、毒が入っているのでは」
ツッコミ「だ、だ、だんな?」
ボケ「嘘だよ!がっはっはっ!」
ツッコミ「ダンナァ!」
ボケ「ボン、ヒュルルルルドカーン」
ツッコミ「ナンダ!?」
ボケ「チッ、生き残りがいやがったか、おい、お前ら、戦だ!」
ツッコミ「ダンナァ!」
ボケ「キンキン、ザシュザシュ、ゲシゲシ、ふぅ、まったく手応えのないやつらだ」
ツッコミ「ダンナァ!」
ボケ「まぁ、オレが強すぎるってのもあるかもな」
ツッコミ「ダンナァ!」
ボケ「おい、オレの空手は?」
ツッコミ「だ、ダンナナダン!」
ボケ「そう、オレの空手は七段。そして、なんとオレは頭もいい」
ツッコミ「ダンナァ!」
ボケ「おい、オレの出身校は?」
ツッコミ「ナダァ!!」
ボケ「そう、オレは灘高校出身」
ツッコミ「ダンナァ!」
ボケ「なに、生き残りがいるだって?牢屋にでも入れておけじわじわと弱らせてやる」
ツッコミ「ダンダンナァ!」
ボケ「それにしても、お前ら、さっきの戦いはなんだ?オレしか戦ってねえじゃねえか」
ツッコミ「だんなぁ」
ボケ「てめえらに飲ませる酒なんてねえよ!これでも食ってろ!!」
ツッコミ「、、、ナンだ!!」
ボケ「不甲斐ねえ奴らだ!まったく、俺ひとりでいいくらいだぜぇ」
ツッコミ「だんなぁ」
ボケ「ん、そんなに部下をいじめるほど、お前は偉いのかって一体誰がそんな、、大親分!?」
ツッコミ「、、、ダンナのダンナ!?」
ボケ「はい、はい、すみません、はい、気をつけます気をつけます」
ツッコミ「だんなぁ」
ボケ「えぇ、えぇ、ほんとすみません、それでは、ええ、また、はい」
ツッコミ「だんなぁ」
ボケ「チャキン、ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ」
ツッコミ「だんな?だんな?だ、だんな?」
ボケ「よし、これで今日からオレが大親分だ!お前ら海の果てまで行くぞ!!!」
ツッコミ「ダンナァ!!!!」
ボケ(真顔に戻る)
ボケ「満足したわ」
ツッコミ「まず、オレを褒めろ!!!!」
ふたり「ありがとうございました」
※この漫才はフィクションです。
漫才4「カレー」
ボケ「最近悩みがあって」
ツッコミ「うん」
ボケ「料理が下手やねん」
ツッコミ「自炊とかすんねや」
ボケ「するよーオマエはせえへんの?」
ツッコミ「オレはもう諦めてるから」
ボケ「諦めてるってなに」
ツッコミ「コンロ溶接してもう使えんようにした」
ボケ「なんでそんな次の人が困ることするん」
ツッコミ「まぁオレはせんからええねん。そんでどしたん料理の悩みって」
ボケ「あのな、全部同じ味になんねん」
ツッコミ「どういうことや」
ボケ「あっ、じゃあ、一回見ててや俺の手料理」
ツッコミ「ええで」
ボケ「まず、玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、切ります」
ツッコミ「おう」
ボケ「お肉と一緒に、炒めます」
ツッコミ「おう」
ボケ「水、入れます」
ツッコミ「おう」
ボケ「カレー粉入れます」
ツッコミ「おう」
ボケ「出来上がり」
ツッコミ「おう」
ボケ「なんかなー、ぜんぶ同じ味なんねん」
ツッコミ「他の料理もやってみてや」
ボケ「ええよ。なんか俺の手料理に興味出てきたん?」
ツッコミ「ええからええから」
ボケ「今度作ったろか?ん?」
ツッコミ「ええからええから」
ボケ「まず、買ってきた鮭と野菜を焼きます」
ツッコミ「おう」
ボケ「ほぐして、鍋に入れます」
ツッコミ「おう」
ボケ「水を入れます」
ツッコミ「おう」
ボケ「カレー粉を」
ツッコミ「カレー粉入れたら全部カレーなるやろ」
ボケ「ん?」
ツッコミ「カレー粉入れたら、カレーなるねん」
ボケ「え。カレー粉入れたら全部カレーになんの?」
ツッコミ「あいつ、絵の具なら真っっっっ黒やぞ」
ボケ「取り返しつかんやつやん」
ツッコミ「せや、取り返しつかん。カレー粉入れたら、あとはもうカレーにしかならん」
ボケ「カレー粉のせいやったんか」
ツッコミ「カレー粉は悪くないけどな。もう鍋に水入れてる時点でカレー作ろうとしてるから」
ボケ「でも、うちのオカンは最後はでかい寸胴に全部の具材入れて混ぜてたけどな」
ツッコミ「魔女やん」
ボケ「金属バットでかき混ぜてたわ」
ツッコミ「秘薬をつくる魔女やん」
ボケ「んで、カレー粉も」
ツッコミ「秘薬をつくる魔女カレーやん」
ボケ「魔女じゃないよ。ちゃんと納税してるし」
ツッコミ「現代の魔女の識別、納税なんや」
ボケ「でも、良かったわ。カレー粉入れへんかったらええんやな。試しにやってみてもええ?」
ツッコミ「おう」
ボケ「まず、カツオをひとつ買ってきて」
ツッコミ「おう」
ボケ「バーナーで炙り、タタキをつくります」
ツッコミ「おう」
ボケ「次に、豚バラ肉をプチトマトに巻いて」
ツッコミ「おう」
ボケ「それを串に刺して、グリルで焼きます」
ツッコミ「めちゃくちゃ本格的やん」
ボケ「鍋を用意して」
ツッコミ「おい」
ボケ「今までの材料全部入れて」
ツッコミ「おいおい」
ボケ「水を入れて」
ツッコミ「おいおいおい」
ボケ「カレー粉を入れて、煮込みます」
ツッコミ「カレーなってもうてるやんけ」
ボケ「カレーを作る手順を聞くという入社試験が某有名企業で行われたらしい」
ツッコミ「カレーの豆知識みたいなんカレーに呟いてるやん」
ボケ「そうやると、カレーの自己肯定感が上がって旨みが増すらしい」
ツッコミ「なんやカレーの自己肯定感って。てか、カレーなってるって」
ボケ「カレーなってもうてるわ確かに」
ツッコミ「オカンの呪いかなんかか?」
ボケ「オカンの呪いかもしれへん。あっ」
ツッコミ「なんやどうした急に」
ボケ「実はオカンから教わったレシピがあって」
ツッコミ「おう」
ボケ「それが怖くて作ったことがないんやけど、一回聞いてくれへん」
ツッコミ「ええけど」
ボケ「イノシシの心臓」
ツッコミ「なんやほんまに秘薬みたいやな」
ボケ「ウサギの肉」
ツッコミ「ちょっと怖なってきたわ」
ボケ「ヘビの皮、ウシの胃袋」
ツッコミ「材料、干支縛り?」
ボケ「クミン、ターメリック、コリアンダー、カルダモン、ナツメグ」
ツッコミ「おい」
ボケ「すべて炒めて」
ツッコミ「おい」
ボケ「水を入れて鍋を用意して」
ツッコミ「おい」
ボケ「カレー粉をひとつ」
ツッコミ「手の込んだカレーやんけ」
ボケ「確かにオカンのカレー、お袋の味というより、母なる大地の味がしたわ」
ツッコミ「どんな味やねん。美味しいか美味しくないかもわからんわ」
ボケ「オカンが魔女じゃなくて良かったわ」
ツッコミ「奇天烈カレーつくるオカンってだけやから魔女ではないな」
ボケ「まぁ、魔女じゃなくても、美魔女なんやけどな」
ツッコミ「おっ」
ボケ「おっ」
ふたり「うふふ、ありがとうございました」
漫才3「オレオレ詐欺」
ボケ「変な話していい?」
ツッコミ「なによ」
ボケ「この前、実家にオレから電話がかかってきたそうやねんけど」
ツッコミ「おう」
ボケ「オレかけてないねん」
ツッコミ「おう。それはつまりアレやな」
ボケ「そうドッペルゲンガーってやつ」
ツッコミ「あ、ちがうちがう」
ボケ「つまり、この世にいま、オレがふたりいるっていうことなんやけど」
ツッコミ「ん?」
ボケ「いや、そいつもオレやしオレもオレやからこの世にオレがふたりおるってことになるやん怖いことに」
ツッコミ「怖いのはお前の思考やわ。いや、違うよ。そのオマエは」
ボケ「そのオマエはどっちのオマエや」
ツッコミ「ややこしいな。オマエじゃないほうのオマエや」
ボケ「オマエじゃないほうのオマエ、オマエか」(ツッコミを指さす)
ツッコミ「オレちゃうわ」
ボケ(自分を指さす)
ツッコミ「オマエでもないわ」
ボケ「オレじゃないオレか」
ツッコミ「そうや。そいつはただの悪いやつやねん」
ボケ「うん。多分な。やっぱりこういう時って善と悪に分かれるやんか。んで、オレが善やから」
ツッコミ「違う違う。そんなピッコロ大魔王やないんやから。あと、自分への自信すごいな」
ボケ「当たり前やろ。生活費以外は募金に全ベットしてるんやぞ」
ツッコミ「募金をベットいうな。あと、ライフプランはちゃんと考えてな」
ボケ「ちゃんと考えてたらこんな漫才しとらんよ」
ツッコミ「やめてくれ。辛辣で吐きそう」
ツッコミ「んで、そういうことじゃなくて悪いやつがオマエじゃないのにオマエやって言い張ってんのよ」
ボケ「なんでそんなん言い切れんねん」
ツッコミ「なんでそんな怒るん」
ボケ「そりゃ確かに悪だとしても、もうひとりの俺が否定されてるの許せんよ」
ツッコミ「もうひとりのオマエじゃなくて、いまここにいるオマエを否定してるんやけどな」
ボケ「つまり、オレが偽物ってこと?」
ツッコミ「なんでや。オマエ以外にオマエはおらんってことや」
ボケ「いやでも、いま確かにオレを名乗ってるのがオレ以外におるってことはオレはいまオレやとオレでは証明できないオレなんや」
ツッコミ「オレオレうるさいな」
ボケ「ひょっとしてこれがオレオレ詐欺ってやつか」
ツッコミ「オレオレ詐欺しとんのは向こうのオマエじゃ。向こうのオマエはアレやろ。親にお金とか請求してきたんちゃうか」
ボケ「せやねん。よくわかってるな。オレ博士か」
ツッコミ「犯罪事例を紹介してるだけや。みんなわかるわ」
ボケ「なんかな。オレに借金があるらしくて親にお金貸してほしいってオレが言ってんねんて」
ツッコミ「ほら見てみい」
ボケ「だからオレが返してあげよ思ってさっきお金借りてきたところやねん」
ツッコミ「なんでオマエが借金返そおもてんねん」
ボケ「いや、オレを救えるのはオレだけやろ」
ツッコミ「聞こえだけはいいなぁ。この状況じゃなかったら。なんでそのオマエは借金してるんや」
ボケ「なんかオレの彼女の借金、肩代わりしたんやって。もしかしたら善のオレなんかもしれへん」
ツッコミ「いや悪や。それやったらオマエ、知らん女の借金返そってなってるやんけ」
ボケ「知らん女ちゃうやろ。もうひとりのオレが伴侶と決めた女性。つまり、もうオレの奥さんや」
ツッコミ「そうはならんやろ。ん、そうなるんか。いやそうはならんやろ」
ボケ「一妻多夫制やな」
ツッコミ「やっぱりそうはならんわ。詐欺やってそれ。だって、オマエがふたりおるわけないやん」
ボケ「そやな。ふたりおるっておかしいな。融合して神様になるわ」
ツッコミ「ピッコロやんけ」
ふたり「どうもありがとうございました」
漫才2「イエスマン」
ボケ「俺さ、この前初めて映画観たんやけど」
ツッコミ「初めて?人生で?」
ボケ「うん、初めて」
ツッコミ「金曜ロードショーもかいくぐって?」
ボケ「かいくぐって」
ツッコミ「すごいな。蚊の1匹も通られへんくらいの包囲網抜けてきてるやん。なんで映画観てなかったん」
ボケ「そんなん2時間あったら他にできることいっぱいあるやろ」
ツッコミ「そんなエリートみたいな思考やっけ」
ボケ「2時間あったら人生変わるわ」
ツッコミ「クソみたいなセミナーの売り文句やな。そんで、なにみたん?」
ボケ「イエスマンっていう映画」
ツッコミ「ええやんけ。あの、すべてにイエスって答えてたら人生がうまくいくやつな。ええセンスや。ジムキャリーはとりあえずマスクとそれ抑えとけば間違いなしや」
ボケ「めっっっっっちゃおもろくて。俺もイエスマンでいこうって思ってん」
ツッコミ「いや人生変えられとるやん。でも、そういうの俺は素敵やと思うで。そんでどうなったん」
ボケ「無一文なった」
ツッコミ「なんでなん?全然うまくいってへんやん」
ボケ「そやねん。思わずどういうことですか、って監督に電話で聞いたんやけど」
ツッコミ「すごい行動力やん。確かにアメリカやったら訴訟起こせるクラスの出来事やわ」
ボケ「アハーン?って言われた」
ツッコミ「めっちゃバカにされてるやん。そんでなんで無一文なったん」
ボケ「いやイエスマンなるって決めて、出かけたらな。駅前でおじさんに話しかけられて、そのおじさんが財布落として帰られへん言うねん」
ツッコミ「寸尺詐欺やないか。よくあるやつやんけ」
ボケ「そんでお金貸してくれませんか言われたからいいよって言うて」
ツッコミ「まぁイエスマンやからな」
ボケ「そしたら、足らんって言われて」
ツッコミ「おい」
ボケ「もっともっとって言われて」
ツッコミ「おい」
ボケ「ずっと、もっともっと言われて」
ツッコミ「おい」
ボケ「有り金全部取られた」
ツッコミ「ハメ技食らってるやんけ」
ボケ「そんで、すべて奪われた」
ツッコミ「すべてってどんなもんよ」
ボケ「家」
ツッコミ「家まで」
ボケ「なんか恐る恐る家とかももらえますかって言われていいよって答えた」
ツッコミ「お前もやべえやつやけど。おっさんも大概やな」
ボケ「そんで、自転車も家も戸籍も全部奪われてしもうてん」
ツッコミ「ん、戸籍も?」
ボケ「うん」
ツッコミ「お前じゃあもう〇〇じゃないん」
ボケ「おいやめろ。その名はもう使われへんことになっている」
ツッコミ「ヴォルデモートみたいになってるやんあんた。え?え?親とかどうしてん反対するやろ」
ボケ「お前がそういうなら俺たちはお前と縁を切るけどええんか?って言われて、もちろんイエスって答えた」
ツッコミ「頭おかしいんか。そんでそのおっさんどうしてんねんいま」
ボケ「俺の実家でオトンとオカンと暮らしてる」
ツッコミ「すごいなそのおっさんも。なんでそのタフさあってしょうもない詐欺しとんねん」
ボケ「だからもうおれには漫才しかないねん。漫才しか残ってへんねん」
ツッコミ「ここまで持たざる者も初めて見たな確かに」
ボケ「売れて売れておっさんからすべてを取り返すためや」
ツッコミ「多分警察にいけばすべて丸くおさまりそうやけど」
ボケ「ここから新しく始めようと思う」
ツッコミ「名前どうすんねん」
ボケ「それは決まってるやろ。イエスマンや」
ツッコミ「ええオチやん」
二人「ありがとうございました」